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「世界一硬い発酵食品」かつお節。 卸問屋の本領は、本物を選び育てる力ーPart1


およそ40年前までは多くの家庭にかつお節削り器があり、子どもでも硬いかつお節を握って、せっせと削ったものだ。それが普通に家事のお手伝いだった。今、かつお節削り器がある家庭は少ない。すでに削ったかつお節や、顆粒のかつお風商品が主流になったからだ。かつお節は棒状の形をしたカツオの体の一部であり、それを削った商品がひらひらの破片だったり粉だったりする。削る前の棒状のかつお節を「姿ぶし」と呼ぶが、それを手にしたことがある人は少ないかもしれない。

かつお出汁は、和食はもちろん様々な料理のベースとなるものだ。お味噌汁にしろ、煮ものにしろ、蕎麦やうどんにしろ、美味しい出汁が味の決め手となる。出汁を取る素材はほかにも、昆布や煮干し、干しシイタケなどがある。水やお湯を使ってそれらの素材から出汁を取る。しかし、出汁の王様はやはり、かつお節だろう。なのに、今時の日本人に「かつお節や昆布から出汁を取っていますか?」と聞いたら、「そんな面倒なことしません。出汁は当然、スティック顆粒です(あるいはパックです)」と答える人がおそらく多いだろう。

しかし「削ったかつお節からわずか10分でおいしい出汁が取れる」と言う人がいる。40年以上かつお節の卸問屋を営んできた稲葉泰三さん(61)だ。稲葉さんは、かつお節を見れば、味の濃淡や脂の乗り具合がだいたいわかるという。20歳でこの仕事をはじめ、30歳で先代の父親からあとを継いだ。今は亡き父親、美二(とみじ)さんは「日本三大目利き」と呼ばれたかつお節問屋だった。仕事に厳しく、何ごとにも筋を通す、一本気の人だった。稲葉さんは、今でもその父から教えてもらったことを胸に刻み、美味しいかつお出汁の普及に熱心だ。稲葉さんの実施するかつお節の出汁取り教室は好評を博し、週末は全国を飛び回っている。

「出汁を取るのは簡単です。出汁取りがややこしいと誤解されているのは残念です」と稲葉さんは言う。水を張ったボールに昆布を2-3片入れて、一晩寝かせる。朝になると昆布からしっかりとうま味が出た水を沸かし、煮立ったら、かつお節をひとつかみ入れて5-6分ほど煮立たせたら、その中身をすくい取るだけ。昆布とカツオを取り出したら、クリアに澄んだ上品な飴色の液体になっている。甘みのある自然な香りがたまらない。この出汁に味噌を溶かすと味噌汁になる。とてもシンプルなのだ。しかし、家庭でこのような出汁取りをしている現代の日本人は、残念なことに決して多くはない。

海外に目を向けると、かつお出汁は、西洋のブイヨンや中華の湯(タン)とは出汁の役割を果たす存在がずいぶんと異なる。10-15年くらい前までは、多くの外国人には日本の出汁の味はあまり知られておらず、独特な魚の匂いゆえ好かれてもいなかった。「鮨は好きでも出汁は嫌い」という外国人は多かったのだ。魚やかつお節の匂いを嫌がっていた外国人にとっても今では、磯の香りあふれる東京の魚市場が人気観光スポットになり、朝4時に競りを見学に来る外人観光客は、鮨や刺身はもちろん、魚の味噌汁をそこで味わって帰るようになった。和食ブームとともに、海外における日本の出汁の認知度も上がってきているし、今般、フランス料理店でもかつお節を使う店があるという。かつお節の需要は今後、海外でも増えるだろう。けれども、かつお節の形をしたもの、あるいは、ひらひらに削られたかつお節が、すべて本物のかつお節とは限らないのだ。

そもそもかつお節とは何なのか? かつお節を知らない日本人はいない。しかし、「かつお節」の正しい定義については、実は私たちもよく知らない。「かつお節の節とは、煮熟(しゃじゅく)して、焙乾(ばいかん)したもののことです。そのプロセスを経ていないものは、本当はかつお節ではないのです。かつお節の中でも、うちは一本釣りの本枯節(ほんがれぶし)だけを扱っています」と稲葉さんは言う。

煮熟? 焙乾? 一本釣り? 本枯節?...って何?!? 誰もが知っていて、味噌汁はもちろん、煮もの、蕎麦、うどん、ラーメン、おでんなどお馴染みのメニューを食べると、多くの場合ベースの出汁として使われている身近な食材がかつお節だ。でありながら、かつお節の世界は実は知らないことが多い。

Part-2につづく。

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