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昔ながらの本みりんは「そのまま飲める」んです! -2


そもそもみりんとはどうやって作るかご存じだろうか?多分「酒類」だということすらあまり知られていないだろう。みりんについて学ぶため、新緑まぶしい5月、千葉県野田市にある明治5年(1872年)創業の窪田酒造を高木さんと一緒に訪問した。代表の窪田芳太郎さんはみりん工場を案内しながら、作り方を教えてくれた。

大きく分けて、みりんを瓶詰めするまでに7つくらいの行程があるという。まずはもち米を精米し、それを蒸す。次に、蒸したもち米に2日かけて作った米糀をまぜ、焼酎に漬け、みりんもろみを作る。ちなみに窪田酒造の糀の室(むろ)は10人くらい入れそうな立派な大きな木の箱だ。焼酎に漬けたもち米と米糀(つまりもろみ)を通常は2カ月醸成させるところを窪田酒造の製法では3カ月熟成させる。特に硬い糀を

使うからだ。熟成させた後、そのみりんもろみを絞って液体のみりんとみりん粕に分け、瓶詰する。この熟成の過程でもち米のデンプンが糖化し自然の甘みが発生する。糀菌の酵素の働きにより、糖類、アミノ酸、有機酸などが生成され、旧式みりん独特の優しいナチュラルな甘みや深いコクのある旨味が形成される。これが窪田酒造の「古式本みりん」というブランドで流通している旧式みりんだ。もちろんこのみりんは手作りで時間や手間がかかるので、生産量は限られている。

みりんには赤っぽいものから白っぽいものまで様々な色味があるが、窪田酒造の古式本みりんは透明度が高く、無色透明に近い薄い黄色の液体だ。これは最適なレベルにうま味を抑え、2回濾過することで実現できる、やわらかかつ純粋な色なのである。「みりんには多種類の糖が含まれるので、古式本みりんには上品で複雑な甘みとうま味が生まれます。みりんは糀の力でお米を溶かしているわけですが、これをしばらく置いておくと赤っぽくなります。うちのみりんは、うま味成分を抑えきれいに濾した、いわゆる『白みりん』です」と窪田さんは言う。

窪田酒造の5代目を受け継ぐ芳太郎さんは、「よい糀とは酵素力が高い糀、つまり糖類を分解する力が強い糀のことです。これを『糖化度』が高い糀と言います」と教えてくれた。ただし、糀の種類によっても得意分野があり、対象が何であるかにより実力の発揮度が違ってくるとのこと。例えば、みりんには糖類を分解する力が強い酵素を多く含む糀が相応しく、一方、味噌にはたんぱく質を分解する力が強い酵素を多く含む糀が向いているということになる。糖化度が高いと、原材料を別のものに変えることができる力も強い。1プラス1が4にも5にもな

る。これが発酵食品の面白さ。「ですから、商品が目標としている質に到達するととてもうれしいです」と窪田さん。「お客さんに喜んでもらえる以上のやりがいはないです」と顔をほころばせた。

ところで、みりんは通常の料理に使われるだけではない。神聖な意味も持っている。日本の1月1日は「元旦」といって1年の始まりを祝う特別な日だ。この元旦に日本人は「お屠蘇」を飲む習慣があった。最近でも伝統的な家庭ではこの習慣は生きているだろうが、ほとんどの都市部では消滅してしまった伝統だ。お屠蘇とは、酒やみりんで生薬を漬け込んだ薬草種のこと。

お正月にこれを小さな杯で呑むと一年中の邪気を除き、家内健康で幸福を迎えることができるという伝統的慣習だった。ここにもみりんは使われていて、甘いリキュール酒のようなお屠蘇を楽しむこともあったのだ。最初は宮廷の行事として始まり、江戸時代には一般家庭にまで広がったと言われている。

長い歴史があり、何よりおいしい古式本みりん。旧式みりんはこだわりの象徴でもあり、作るのは簡単ではない。手間も暇かかる。だから生産量も限られ、価格は上がる。しかし、良い調味料はやはり魅力的なのだ。普段あまり手に入らないからこそ、素敵なのだ。しかも、調味料は直接私たちの体に入ってくる食べ物そのものであり、それらが私たちの体を作る。野菜は有機栽培にこだわっても、調味料は添加物だらけのものを選んでいる可能性は実はないだろうか?自然のものを、自然な製法で生まれた調味料でいただくのが体にやさしいのだ。

糀マイスターの高木さんによると、旧式みりんの健康効果には注目すべきものがある。まずは抗酸化効果*3だろう。酒メーカーの研究グループもみりんのアンチエイジング効果を実証している。脂質の過酸化を抑制し、新しい細胞を作る作用があるからだ。また低GI(Glycemic Index)食品であることも注目に値する。GIとは、食べ物が血糖値を上昇させる度合いを表す数値で、低GIは血糖値の上がり方が緩やかであることを示している。急激な血糖値上昇を引き起こす高GI食品は、急激に上がった後、急降下するとされ、めまぐるしい変化に体が適応しきれず、さらに甘いものを欲するようになると言われている。

高GI食品による血糖値の急上昇と急降下を繰り返すと、空腹感が増し、贅肉が付き、肌は老け込むなどの悪影響があるという結果*4もあるようだ。だから旧式みりんは美肌効果も望めるようだし、米糀の酵素の働きで生成されるアミノ酸やビタミンB群が疲労回復にも寄与するようだ。さらに、みりんには血圧上昇抑制効果もあるといわれている。こんなふうにかなり高多機能な旧式みりん。目立たず、黙々と働いてくれている。

このような旧式本みりんを砂糖代わりに使ってはどうか?砂糖は単一でストレートな甘さだが、旧式みりんはブドウ糖やオリゴ糖など糀がもたらす複数の糖が上品でやわらかい甘さ、アミノ酸が旨味とコクを構成している。糀マイスターの高木さんはそのような旧式みりんの特徴を生かし、「砂糖なしみりんのプリン」を作ってくれた。卵とミルクとバニラビーンズを混ぜるところまでは同じ。砂糖の代わりにみりんシロップを入れる。みりんシロップは、旧式みりん100mlを半分の量になるまで鍋で煮詰めていく。アルコール分が全部飛んで、とろりとした美味しいシロップが出来上がる。これをプリンの上に掛ければ、カラメルソースよりも甘さが優しいプリンの出来上がり。これが非常においしい。高木さんによると、「砂糖との違いをはじめとして、旧式みりんに色々特徴はありますが、特筆すべきはその味と調理効果。上品で複雑な甘みと、砂糖にはないコクの深い旨味。使うと料理上手になった気分になります!」とのこと。もちろん、「テリ・ツヤ、臭い消し、味をしみ込ませる、煮崩れ防止など、次から次へと優れた作用を発揮してくれる点も魅力的」だという。食べる側からしても、甘い料理に砂糖が入っていないと思うと、しかもこの甘さは低GIなのだと思うと、罪悪感なしに楽しめる。

こういうみりんの活用はほかにもたくさんあるはずだ。特に、健康効果の高いスイーツを開発する上で、旧式みりんは本領を発揮することができるだろう。本物のみりんは、テリや甘さをもたらすだけではない。美味しさと食事の楽しみも実現してくれる。健康志向が高まる昨今、昔ながらの本物のみりんはもっと脚光を浴びてもいいはずだ。

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<参照>

*1:焼酎の代わりに原料アルコールを使用する製法もある。

*2:http://www.honmirin.org/page/info.html

*3:高木さんのテキスト:「Cozy Book『流山みりん』」参照

https://www.mylohas.net/2015/10/049582mirin.html

*4:Erica Angyal, http://www.erica-angyal.com/#book/sanjyunichijijyodiet/

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