昔ながらのみりんは「そのまま飲める」んです! -1
テリヤキは今や世界的なメニュー。「テリヤキバーガー」なるものがあったり、「テリヤキソース」も完成した商品として世界中で売られている。様々な食材をほんのり甘くし、美味しいと言わせてしまうその秘密は、「sweet rice wine(みりん)」と「soy source(醤油)」の絶妙のコンビネーションなのだ。これほどまでに有名なテリヤキだが、そのテリと甘さを生み出す「みりん」については一般的にあまり知られていない。
日本人でさえも、「みりん」と言えばブリの照り焼きや肉じゃがに使う、ちょっとレトロな和風調味料と思っている人は多いはずだ。同じ発酵調味料でも、醤油や味噌と比べると、圧倒的にプレゼンスは低いのだ。しかし、テリヤキのあのつやや甘さはみりんから生まれる。はちみつや砂糖を使ってテリヤキを甘くする場合もあるだろう。しかし、本当の照り焼きは醤油と本みりん。これがマストアイテムなのだ。
本物のみりんは実は蒸したもち米を糀と焼酎*1で醸造した甘いお酒。「みりんはそのまま飲めるんです」と言うと、ほとんどの日本人はおそらく驚く。みりんは発酵調味料であって、飲み物ではないと信じているから。しかし本物のみりんは、アルコール度約14%の立派な酒類飲料なのだ。
実は「みりん」と呼ばれる液体には、何種類かのカテゴリー*2がある。1)昔ながらの化合物を一切加えない「伝統醸造の旧式みりん」(=伝統製法を用いた昔ながらのみりん)と2)「本みりん」(=発酵時間を調整した工業製法)、そして3)「みりん風調味料」(=アルコールを含まず)。少なくともこの3種類があり、このストーリーで触れるのはアルコール度の高い、添加物を含まない最初のカテゴリー、「伝統醸造の旧式みりん」のことである。だから、間違っても「みりん風調味料」をそのまま飲んではならない。これは飲めた代物ではなく、あくまでも手軽なお料理用。みりん風調味料には、旧式みりんの上品な風味ややわらかさは一切ない。
本来、旧式みりんは16世紀に造られ始め、17世紀江戸時代には、飲用酒類として消費されていた。甘くて飲みやすいお酒として人気を博していたのだ。それが19世紀ごろになると鰻のたれやそばつゆとして料理に使われるようになった。つい最近の20世紀半ばまでは、日本料理店で使われる贅沢調味料の一つであった。最近のようにどのスーパーマーケットでも売られ、一般家庭で簡単に使われるまでに普及したのは、1960年代になってからのこと。それ以降、和食にはみりんは家庭料理に欠かせない調味料になった。
しかし、ここしばらくみりんは再び存在感を薄めていた。スーパーマーケットの棚を見ると、一目瞭然。醤油や味噌のコーナー、そしてそれ以外の輸入品も含む新しい調味料のスペースは広いのに、みりんの棚は案外狭い。同時にあまりにもたくさんの人工甘味料や甘み調味料が登場したことが、家庭料理の質を変え、みりんの存在を追いやっているともいえるかもしれない。確かにここ数年の糀ブームの後押しでみりんを見直す家庭も出てきたことは事実だ。しかし、一昔前と比べるとまだまだ消費の伸びしろは大きいはずだ。
そんなみりんをもっと知ってもらおうと、千葉県流山市では「糀マイスター」(日本糀文化協会)の高木佐知子さんが活躍している。高木さんは、イベントで一般の方々に対してみりんを紹介している。3児の母である高木さん自身、糀はもちろんのこと日本の伝統調味料への興味を持ち、昨年この資格を取った。Cozy Kitchenという組織を作り、昨今少し存在感を失ってきたみりんの歴史や効果について伝えている。特に地元流山は歴史的にみりんの生産量が多く、「みりんの産地」とも言っていい場所だ。高木さんのレクチャーは、イベント参加者に評判がよく、最近のお母さん方の発酵食品や調味料への興味の高さうかがえる。「子供に安全な食品を」と願うのは当然のことだが、ここまで熱心に多くのお母さんがレクチャーを聞きに集まってくることには、驚きと嬉しさを感じる。
このみりんとは、そして、旧式みりんとは一体なんなのか?またなぜ、伝統醸造の旧式みりんは素晴らしいのだろうか?Part2では、そこを詳しくご紹介したいと思う。(次回へ続く)
<参照>
*1:焼酎の代わりに原料アルコールを使用する製法もある。
*2:http://www.honmirin.org/page/info.html