手作り米麹ベースのあまりにも美味しいナチュラル調味料

March 5, 2017

 

「日本で最も美しい村」の一つ、群馬県昭和村の2月半ばは一面の銀世界。夏に訪れた際に広がっていた緑の野菜畑はすべて純白の雪に覆われていた。北海道かと見間違えるくらい雪景色は広大で静かで、そして美しい。合間にシルキーブルーの空も見え隠れし、真っ白な畑との詩的なコントラストを紡ぎ出す。「最も美しい」というだけあって、この村には広い空の下、どこまでも自然があふれている。

 

梅が咲き始めた東京から高速で、わずか2時間走ると、全くの別世界が開けてくるのだ。昭和村の雪は、さらさらでふわふわ。手に掬うときめの細かいかき氷のようで、思わずほおばってみたくなる。まだ誰も踏み込んでいない場所に足を踏み入れてみると、雪はひざ上までずっぽり覆い、たちまち動きを取られてしまう。足跡が深く残る。村人も驚くほど、訪問の前夜は多くの雪が降っていた。

 

 

昭和村は赤城山の裾野に位置し、標高は低い所でも約250メートル、高い場所では750メートルに至る高低差の大きな地域に広がっている。利根川の源流に近く、その川が長い時間をかけて削り出した河岸段丘地帯だ。空気も水も冷たく澄んでいる。

 

 

 

この村は、葉もの野菜の生産地としても知られており、「野菜王国」と称している。特にほうれん草、レタス、小松菜などが多く栽培されている。河岸段丘特有の段々に広がる土地には、太古に赤城山が噴火した際に堆積した軽石の上に養分を含んだ黒土が層をなした水はけのよい土壌が広がり、夏でも冷涼な高原気候と相まって豊かな恵みを産み出している。

 

 この日本で最も美しい村で、手作りの米麹をベースにした調味料を生産している農家さんがあすなろ工房だ。この工房を経営する吉川和孝さんと妻の博子さんは、先祖が代々暮らしてきた築180年の古民家の一部を改造し、米麹と調味料の加工所を作った。博子さんはこの農家の7代目。大学時代からずっと都会に出ていたが、4年前に父親が亡くなったことをきっかけに、夫和孝さんとこの実家に戻り、母親も一緒に家業の農家を継ぐことにした。

 

大雪の中、訪問すると博子さんが工房の片隅で青緑色の「なめらかな柚子こしょう」を作っていた。あすなろ工房の柚子胡椒には赤と青の2種類がある。この柚子胡椒が一味違う。最初口にしたとき、そのうま味に驚いた。明らかに何かがちがう。柚子もスパイスも好きな私は、いろいろな柚子胡椒を使ってきたからだ。このうま味の正体は何なのか? しかし、そのうま味が手作りの米麹から来ているということを知ったのは、最初に驚いたときから2か月後の、この工房を訪問した日だった。

 

 「とてもシンプルですよ。夫が作った自家製米麹とうちの畑で採れた唐辛子に塩を加え、まぜて寝かせます。そして、唐辛子と私たちが群馬県内で栽培している柚子の皮をそれに加え、ミキサーで混ぜます。火を通して冷却して出来上がり。作り方はいたって簡単でしょ。でも、シンプルなだけに、一番いい味に辿り着くまでには、北海道から熊本まで全国150名ほどの友人に試食してもらいました。ベストの配分に漕ぎつけるまでに3年かかりました」と博子さんは言う。「Less is More」というが、まさにそんな感じだ。シンプルな中にギュッとうま味が詰まっている。完成するまでにかなりの試行錯誤を経たのも頷ける。

 

 通常、柚子胡椒といえば、緑っぽくてピリッと辛いイメージがある。しかし、あすなろ工房の「なめらかな柚子こしょう」は、とろりとしてまさに「なめらか」なのだ。味噌よりも少し柔らかいくらい。「スパイスというよりも、味噌や醤油のように毎日使ってもらえる調味料づくりを目指しています。そのためには、うま味を出す米麹の存在が不可欠なんです」と博子さん。

 

 なんと、あのうま味の秘密はベースとなる米麹だったのだ! 作る際、大量の米麹を使っていた。柚子もたくさん入っているので、シトラス系の心地よい香りが唐辛子に負けないで、しっかり漂ってくる。青い柚子胡椒は青い未成熟の青い唐辛子を、赤い柚子胡椒は熟れた赤い唐辛子を使う。原料や作り方は同じだが、青はさらに柑橘系のさわやかな香りが印象的で、赤はうま味とコクが食いしん坊のハートをつかむ。天然のもの以外は何も使っていない。無添加無着色のナチュラル調味料がここまでいい味といい色を作り出すことができるのだ! ナチュラルだから、当然体にもやさしい。

 

 訪問した日は、生のこんにゃく芋を使って手作りしたこんにゃくを炊いて、様々な調味料をつけて試食をさせていただいた。こんにゃくも原料の芋からあすなろ工房で手作りしたものだ。ちなみに、昭和村はこんにゃく芋の生産量全国一で、夏訪れるとかわいい形をしたこんにゃく芋の葉があちこちの畑から顔を出している。その芋を使った生芋こんにゃくは、市販の黒っ

 

ぽいこんにゃくとは風味も舌触りも全然ちがう、やさしい食感だ。そのこんにゃくの煮物に「なめらかな柚子こしょう」は抜群に合う。

 

ちなみに、昨年末に赤い「なめらかな柚子こしょう」にはまってしまった私はそれ以来、そば、うどん、チーズオムレツ、グリルドチキン、豚汁はもちろんのこと、ペペロンチーノパスタの唐辛子の代わりにもこの商品を使ってみた。これが絶妙。すべてに合って、ピリ辛なだけではなく、しっかりと柚子のさわやかな香りが残る。そして、唐辛子の辛みも舌をつたわってくる。辛くするためのスパイスではなく、柚子胡椒の「味」が感じられる。味噌と同じレベルで味わえる柚子胡椒なのだ。

 

料理するのが面倒な時は、あったかいご飯の上に乗せるだけで、ご飯の友にもなる。肉にも、魚にも、野菜にも、麺類・パスタにもご飯にも合う万能の調味料。特に、辛いもの好きの人にはたまらない。通常の柚子胡椒はそのものを食べることはまずなく、あくまでスパイスなのだが、この柚子胡椒はそれ自体を食べているかのような存在感がある。それも、この手作り米麹と素材配分のマジックが影で支えてくれているからなのだ。

 

 ベースとなる米麹を作っているのは夫の和孝さん。彼は、博子さんと結婚するまでは滋賀県や栃木県の美術館で学芸員として働いていた。いくら妻の実家が農家といっても、学芸員のようなインテリがなぜ全く違う農業の世界へと大きく方向を変えたのか? 「学芸員の仕事では、一流の芸術家や作品と接することができ、展覧会の企画やコーディネートを担当

するわけですから、多くのことを学べて楽しかったです。一方で、命を削るようにして芸術作品を生み出している素晴らしいアーチストの方々をそばで見ていると、自分も何かこの手で生み出したいと思うようになりました」と和孝さんは言う。当時付き合っていた博子さんが群馬県の農家の娘であり、その実家が後継ぎ問題に直面していたことから、2年前に和孝さんは迷うことなく、昭和村への「移住」を決意した。今では、農業用の作業着も板につき、大雪の冬の夜には高速道路の凍結を防ぐため、除雪作業員として活躍するほど昭和村に溶け込んだ。

 

 和孝さんは昭和村に移住して以来、農業の先輩に指導を受け、ほうれん草などの農作物作りに励んでいる。特に、米麹づくりには情熱をもって取り組んでいる。元学芸員という背景から、情報収集は得意であり、勉強熱心。そして、ものづくりへのこだわりは強い。すっかり魅力にとりつかれてしまった昭和村の歴史や土地、そして気候の特徴も学んでいる。

 

和孝さんは、温度や湿度管理が決め手となる米麹を上手く作るため、昨年の春に専用の室と2つの加工所を新たに作った。一日のうち何度も米麹の様子をチェックに行く。「農産物である米が原料となるため、米自体の状態や季節ごとの気温に合わせ、水に浸したり蒸す時間を微妙に調整しています。また麹菌が繁殖するのに伴い、米の温度が自然に上昇していきますので、その進み具合を確認しながら、米を混ぜたり、冷ましたりなど『手入れ』をします。米麹づくりの主役は麹菌です。菌も生き物ですから、繁殖していく各段階で、いかに良い環境を作ってあげられるかで出来が左右されます。人間は菌の活動のお手伝いをするわけです」と和孝さん。また、「精米された白米では米の栄養素の7割が捨てられてしまうと言われ、発芽玄米の麹はビタミンやミネラル、植物繊維が豊富に含まれるとともに、独特な香ばしいコクとうま味があります」と言う。現在、和孝さんは、発芽玄米を使った麹の製造にも取り組んでいる。

 

米麹が完成するまでには3日間かかる。水に一晩漬けた米を取り出し、水を切り、蒸かす。蒸し上がった米を布の上に広げる。それを手早く広げながら、温度を冷まして適温にしてから麹菌を混ぜていく。麹菌1グラムには約2.5億個の菌が含まれると言われ、米麹作りには、米1キログラムに対し、1グラムが使われる。米と麹菌がまんべなく混ざったら、布に包み込み適温適湿に保たれた室へと運ぶ。その後、菌が十分に繁殖するまで、何度も菌の具合を確認し、必要に応じて手入れをする。水分を含んだ米は案外重く、運んだりかき混ぜたりするのは力仕事だ。

 

近年、海外でも注目を浴びつつある麹。実は、麹は日本古来の知恵の食品で、すごい力を秘めていると言われる。麹を使った発酵食品には善玉菌が多く、菌の働きによって成分が細分化されることから消化吸収が良くなる。また、元の食品にない栄養素を作ってうま味を増やしたり、長期の熟成を可能にするなど、多くの利点が指摘されている。麹とは菌の一種であるが、その特性を利用して熟成・発酵させた食品は、健康な日本食のカギとして注目されている。大豆や麦を発酵させたものが味噌や醤油や納豆であり、米を発酵させたものが日本酒である。欧米のチーズやヨーグルト、ワインに匹敵する日本の食品が、味噌、醤油、納豆、日本酒というわけだ。

 

 米麹の働きによって作られる甘酒は、健康食品として日本でここしばらく注目の的となっている。米麹由来の酵素(アミラーゼ)によって、米のでんぷんは糖になる。また、タンパク質はうま味成分であるアミノ酸に分解される。「飲む点滴」とも言われ、ぶどう糖やビタミンB群、アミノ酸も含まれることから、疲労回復や保湿効果があると言われる。砂糖は入っていないが麹菌の力で自然に甘くなり、酒とは呼んでもアルコール分は含まれてはいない。甘酒には2種類あり、もう一方の日本酒の製造過程で残る酒粕から作る甘酒には砂糖もアルコールも含まれている。ここで言う甘酒は、米麹から作るものを言う。

 

この不思議な米麹の力がベースとなり、すべて自然の素材からできているあすなろ工房の調味料。博子さんは、「もっと群馬県の食材を使って、製造する調味料の種類を増やし、季節ごとに、一年中途切れることなくいろいろな味を提供したい」と企画を練っている。

 

 

ドローンから見た昭和村の雪景色はこちら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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キャリヨンLLCは、糀マイスターと食養アドバイザーの視点から、「糀かねのね」ブランドで、日本の米糀をもとにした発酵食養とその結果としての「ポジティブ・エイジング」について提唱し、お伝えする会社です。

 

「日本から」を志として、日本の地方にある小さな工房や伝統蔵の糀・発酵文化を、国内はもとより海外に伝えていくことを使命としています。

 

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