多様な自然の土地がつくり出す、爽やかな有機栽培茶

December 20, 2016

 

奈良市内から1時間ほど山に向かってひたすら車を走らせる。その日は小雨が降っていて、山奥は少し肌寒い。まだまだ山は続くのかと思い始めたころ、月ヶ瀬健康茶園に到着した。淹れたての熱い緑茶が体全身に染みわたる。

 

 すっきりした甘い香りのするこの緑茶は、深いコクがあるというよりも、あっさりタイプのテイストだ。熱いお湯を茶葉の上に注ぐと、茶葉がやけどしないようにわずか数秒でカップに注ぐ。これを何度も繰り返す。茶葉はしっかりと揉んでいるので、熱湯に浸っている時間がわずかでもしっかりとした色が出ている。何杯でも続けて飲めるシンプルな味。飲めば飲むほどまた飲みたくなる。この素直な味はどこから来るのだろう?

 

奈良の山奥のお茶農家で生まれ育ち、長年にわたりお茶栽培に携わってきた月ヶ瀬健康茶園主5代目の岩田文明さんは言う、「こういう入れ方をすると、すっきりと手早く飲めるんです。自然栽培で作ったお茶の透明度、ピュアな味わいを楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。」

 

 

岩田さんは、茶園を「茶畑」と「茶山」に分けて説明する。茶畑とは、1950年代以降、ブルドーザーなどの大型重機が登場し、お茶もいかに効率よく仕事でき、機械化できるかということが重視されるようになった時代に、造成して平地の畑になった「新しい」栽培地のことである。一方、茶山は月ヶ瀬の地域の本来の地形をできるだけ壊さずにお茶を植えている、いわば不整形の「老舗」の栽培地。もともとお茶が生息していたところに、表土を壊さず植えている場所である。

 

 岩田さんのお茶作りは、すべてこの立地条件から始まる。月ヶ瀬には、区画整備された広い畑もあれば、小さい不整形な茶山もあちこちにたくさんある。前者は同じものをたくさん機械で効率的に作るには有利な場所。後者の茶山では、その多様性が月ヶ瀬の自然栽培を可能にしている。「山間地の土地が不ぞろいということは、人間にとってではなく、お茶にとって都合がよいということ。お茶には樹木として育ちやすい環境があります。月ヶ瀬のそのままの風土をより活かしたお茶づくりを茶山で行いたいと思っています」と岩田さんは言う。

 

 地域の風土をより活かした自然栽培のお茶づくりでは、農薬も化学肥料も一切使わず、地域に育つ自然の草木のみを循環させる。遠いところから持ってきた肥料や買った肥料は使わない。その地域の中で循環を実現する。しかし、このスタイルで日本の一般的な収量を上げることは難しい。

 

 

 

 

実は、日本はお茶栽培における化学肥料や農薬の技術が高く、海外の10倍もの収量を得ることができる。非常に高い技術だが、このスタイルで作ったお茶は、本質を追及したお茶というよりも、技術で作ったお茶ということになる。自然栽培はその逆で、自然のリズムの中でお茶が育っていくという考え方だ。

 

化学肥料や農薬を一切使わないでうま味成分であるアミノ酸を増やすことは難しい。現在は、お茶はうま味成分を含んでいた方がおいしいというのが一般的な見方だ。だから、これまでは有機や無農薬でもどれだけアミノ酸を多く含むお茶ができるかというところで競ってきた。

 

岩田さんは言う。「体内にアミノ酸を蓄えてうま味のあるお茶を作るためには、農薬や殺虫剤を使う必要があります。無農薬でアミノ酸を多く含むお茶を作るというのは矛盾しているんです。その矛盾に10年前に気づいてからは、農薬も化学肥料を使わない『ハンデ』を『アドバンテージ』に変えようと発想を変えました。」

 

 

アミノ酸を追及すれば、無農薬はハンデになる。しかし、お茶は光合成することで糖の甘みを自ら生み出す。私が最初に淹れてもらったお茶に感じたおいしさは、アミノ酸のうま味ではなく、光合成による糖の甘みだったのだ。

 

糖の甘みは、光合成と有機物によってできる。落ち葉や草など炭水化物系の炭素由来の甘みだ。これは有機でないとできない。それに気づいて以来、岩田さんは「アミノ酸には特有のおいしさがあるけれど、自然栽培では、化学肥料を使ったお茶よりアミノ酸を多く含むお茶を作ることはできません。であれば、自然栽培ならではのおいしさを追及した方がいいと思うんです」と言う。自然栽培のお茶はとても素直なので、土が変わると味も変わる。素材がそのまま生きてくるので、飲むと「あの畑のもので、こう淹れたんですね」ということがすぐ伝わる。作り手としてのお茶の魅力はそのようなシンプルさにあると岩田さんは言う。

 

 また、自然栽培では、効率的な作業はできない。すると当然、収穫量は減るので、同じ収量を上げようとするとより広い範囲で栽培していく必要性が出てくる。「農業の技術は、面積当たりの収量や品質や味を上げるということがこれまでの技術でした。自然栽培は、そうではなくて、いかに広い面積を維持しつつ、自然のリズムで育ったお茶を管理していけるか、ということです。ですから求められる技術が違うんです」と岩田さんは言う。面積が10倍になったからと言って、10倍の労力を投資するようではコストが合わない。現在のコストと労働力に近い状態でいかに10倍の面積を管理できるかということになる。

 

同じコストと労働力で広い面積を管理するためには、農作業において一つの作業が複数の目的を果たさなければならない。例えば、落ち葉や草を畑に入れるということも、草を刈るだけでなく有機物として投入する、つまり、土をより良い土にしていくという目的も同時に持たせるということだ。耕作放棄地になった畑には、誰も草を刈らないので、ジャングルのようになってイノシシの住処になっているところもある。この草を刈ることは、茶園に投入するための草を獲得するだけではなく、獣害防止という意味にもなる。本来1ヘクタールの茶畑を管理するのにはそれだけの草場が必要になる。だから、草を刈るという一つの行為が、有機物投入と獣害防止という二つの役割を果たすことになる。これは、地域のエコシステムを維持する上でも重要な役割を果たす。

 

 この地域でも年々茶畑の面積は減ってきている。高齢化のため、茶農家を辞める人が増えてきているからだ。日本では、茶葉の消費量も減少しているし、価格も下落している。8年前と比べて全国の茶葉生産量は約7%減っており、10年前と比べて一世帯あたりの茶葉購入金額は、1500円以上減っている(1)のだ。茶農家がへり、生産量が減り、消費量も減る。価格も下がる。すると、試験場や機械販売業など関連事業にも影響が及ぶ。そんな中、月ヶ瀬健康農園は、収穫時にお茶摘みの経験を訪問客に提供したり、お茶の飲み比べなど子供や一般消費者向けイベントも開催し、お茶の啓発にも尽力している。そして、そこに人々が集まり始めている。

 

「お茶の産地であり続けたいんです。同じものをたくさん作るには不利な土地かもしれませんが、多品目を生産すれば条件有利地になります。最近はお茶離れと言いますが、プラスに考えることで、一見不利に見えることを、多品目生産という発想に変えることで、どう課題に取り組めばいいのかを考えることは楽しいです」と岩田さんは言う。「ピンチはチャンス」とよく言う。しかしその転換には膨大なエネルギーが必要になり、実践は決して簡単ではない。その難題にあえて茶畑で挑戦しているのが月ヶ瀬健康茶園なのだ。

 

月ヶ瀬健康茶園のお茶はここから買えます。

http://www.tukicha.com/product/

 

 

(1) http://www.maff.go.jp/kanto/seisan/engei/tokusan/sanchi/pdf/tya2.pdf

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キャリヨンLLCは、糀マイスターと食養アドバイザーの視点から、「糀かねのね」ブランドで、日本の米糀をもとにした発酵食養とその結果としての「ポジティブ・エイジング」について提唱し、お伝えする会社です。

 

「日本から」を志として、日本の地方にある小さな工房や伝統蔵の糀・発酵文化を、国内はもとより海外に伝えていくことを使命としています。

 

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