泥から花へ、れんこんピクルス誕生物語

February 16, 2017

 スペインのアーティスト、ジョアン・ミロ(1893-1983年)は、まるで音楽を奏でるかのような華やかで軽やかな抽象画を描いた。そのミロの絵をれんこんのピクルスで実現したいと思ったのが「花れんこん」誕生のきっかけだった。花れんこんは、色白でシャキシャキ感が特徴の鳴門れんこんを薄くスライスして、赤や黄色の鮮やかな野菜と一緒にピクルスにしたまるで花束のような瓶づめだ。れんこんは、長い節を穴が貫いていることから、「先の見通しがいい」とされ、縁起のよい食べ物として祝事などでよく使われる。

 

 この花れんこんをデザインしているのが、フラワーデザイナーの齋藤住子さん。彼女は約30年前、9代続くれんこん農家に嫁いだ。れんこん生産で全国第二位を誇る徳島県でも鳴門市は特に栽培がさかんな地で、そこで住子さんは花に関わる仕事に献身していた。「私は装花が大好きで、ブーケで生きていこうと若いころに決意しました。2013年にご縁をいただいて、6次産業の加工品をコンクールに出すことになりました。その時考えていた、『赤ちゃんれんこんだけを使ったピクルス』を出品してみようと思いました。れんこんをきれいにして世に送り出したかったので、ミロの絵のような華やかさを目指して作りました」と住子さんは楽しそうに話す。このコンクールで、見事、会長賞を受賞した。

 

 しかし、ここからが苦難の連続であった。「お客様の口に入る食べ物なので失敗は許されない」。2年以上かけて第三者機関(徳島県立工業技術センター)で、「添加物を使わずに、なるべく生に近い食感をできるだけ長い期間保存できるようにし、他には無い圧倒的なまろやかさを追求する」という新しいタイプの加工品という位置づけで研究した。農商工連携分野における次世代技術者養成事業の研修も修了し、現在も継続している。こうして2015年末に花れんこんの本格的な生産が始まった。

 

住子さんは、もともとは農家出身ではなく、1308年開祖のお寺に生まれた。小さいころから華道遠州流師匠である祖母について、お寺の本堂、床の間、台所などあらゆる所に花を生けるのを毎日手伝っていた。だから花とはいつも接していた。中学生になる頃には手工芸が好きになり、毎日のように部屋にこもって端切れで小さな人形をひたすら作っていたという。50-60年前の日本は、「女性は結婚したら家に入るのが当然」という社会だった。そんな中、職業婦人だった母親の影響を受け、結婚しても仕事を持つよう意識するようになる。そして、いつしか住子さんは大好きな手工芸を職業にしようと思うようになった。

 

 花と手工芸が一つのテーマとして結びつき、住子さんは26歳の時、アートフラワーの門を叩く。今から40年ほど前の話だ。アートフラワーを12年間修業し、布花の染色、造形を毎日のように行い、入門半年後、県の手工芸家協会主催のコンテストで最優秀賞を受賞した。布花の魅力に取りつかれ、藍染の古布を使った創作花にも没頭した。その後、生花ブーケデザインを仕事とする。その頃はちょうど生花のブーケが流行し、ウェディングショーが頻繁に開催され、自身のデザインも舞台で発表した。舞台・モデル・ドレス・花のデザインが一体になり、「お客様のハレの日を演出できた時に、かけがえのない喜びを感じていた。」住子さんは「多い時は1日20個以上のブーケを作っていました。1時間に1個作っても1日で終わらない数でした」と笑う。それ以降40年間、ブーケの素材は生花から造花やプリザーブドに変わっていったが、住子さんはお客様の要望に併せ、初心を忘れずオリジナルのデザインを発信し続けている。

 

 住子さんが嫁いだ齋藤家は農家だった。しかし夫の両親からは、「(家業である)れんこんはしなくていい、畑作業はしないでいい、むしろ大好きなお花を一生続けてほしい」と言われていた。理解ある両親に支えられ、新たな仕事に次々取り組んだ。レストランウェディング、ホテルのロビーの装飾、船上ウェディング、花の講習会などに作品を作り続けた。両親はデザインの配達を引き受けてくれて、夫も草花や木の実の採集に積極的に協力してくれた。しかしその夫も病で倒れ、看護の甲斐もなく他界してしまった。近年は、その両親と実の両親の4人に加え、住み込みの農作業人2人と親戚の1人の合計7名を10年間にわたり同時に介護していた。老人ゆえに病気やケガは絶えなかったという。住子さんは、離れたところに存在するいくつもの病院を午前中に回り介護をし、午後は家に戻って家事、そして夜になると大好きなブーケづくりに没頭した。介護をしながらの家事や仕事は決して楽ではなかったが、花への想いがエネルギーの源になったという。

 

「齋藤家はとても理解のある家族でした。元気だったころのおじいちゃん(夫の父親)は、私が夜中にブーケを作っていたら夜食を作ってくれるくらいサポートしてくれていたんです。おばあちゃんも、主人がなくなった後、寂しいんじゃないかと何かと私に気を遣ってくれました。毎日のスケジュールを事前に聞いて、遠方の配達でも2人で仲睦まじく行ってくれた事は感謝してもしきれません。実の母も私を心から応援してくれていました」と住子さんは言う。れんこん農家に嫁いだのに花ばかりではなく、自分が培った経験を活かし何かれんこんに関わることに携わりたいと彼女は思っていた。義理の母親が亡くなる直前に、自宅の畑で採れたれんこんを使った花れんこんを見せることができた。また、実の母親にも亡くなる前に、赤いちりめんの風呂敷に包まれた花れんこんを持っていき、見せることができた。そして、「これがお母さんが望んでいたものづくりですよね!」と聞くことができた。花れんこんは、住子さんから二人の母親へのオマージュであり、恩返しでもあるのだ。

 

 

「でもね、一人では何もできないんですよ」と住子さんは言う。デザインを完成させるまでに、書家の先生や友人たちの温かい応援に支えられた。そしてデザイン完成後も、生産体制を整えるなど、販売するという段階で壁にぶつかった。花れんこんは、美しさだけを追求してきたこれまでのブーケづくりの方法とは違っていた。実際、最初の1年は販売が進まず、それを見かねた長男の彰さんが大阪から2015年に実家に戻り、住子さんを手伝うようになった。住子さんの花れんこんを応援するもう一人の頼りになる人物の出現だ。彰さんの助けあって、この1年間で50回ほど対面販売が実現した。顧客や企業、行政相手に商品を試食してもらったり、言葉で伝えることにも力を注ぎ、「とくしま特選ブランド」や「鳴門市ふるさと納税対象記念品」に認定された。さらに、明治神宮への奉献や航空会社の国際線のビジネスクラスとファーストクラスで食事に提供することを検討してもらうところまでも漕ぎつけた。

 

「手掘りする蓮根の収穫はとても大変です。その鳴門のれんこんを使った商品をたくさんの方に知って貰い、評価される事で、少しでも村の方に喜んで頂ければ、嬉しいです」と住子さんは言う。

 

彼女はいつも朗らかだ。その朗らかさはどこから来るのか聞いてみた。「仏様の教えに布施という言葉がありますね。この中には『和顔施(わがんせ)』というものがあります。これは相手に対してにこやかに接するという教えです。寺の子に生まれ、ずっと法話を聞いて育ってきましたから、自然と細胞に染み込んでいるのかもしれません。それが心を安らかにしてきてくれたのだろうと思います」と住子さんは言う。この教えが、「人生は遊び」で、「自分は常に守られている」と信じ、「人生を朗らかに楽しむ」ことを可能にするのかもしれない。

 

れんこんは沼のような粘土質の畑の地下2メートルくらいのところに埋まっているものも多くある。掘り出したときは泥だらけなのだ。深いところから掘り出すのには、ものすごく大きな力が必要だ。その重労働ゆえ、れんこん掘りを何十年も毎日続けている作り手さんの足や腰は曲がってしまう。そのような作り手さんたちが毎日通る畑の横に、「ここを通る人たちが花を見て心を和めてほしい」と願い、花と野菜が美しく共存したフランス式庭園ポタジェを作った。バラや桜など、四季折々に可愛らしい花が咲く。

 

泥だらけのれんこんを少しでもきれいに見せたいと思い、ミロの絵の実現を目指して花れんこんを創った住子さん。一つ一つ心を込めて丁寧に作っている。心からきれいなものを人に見せたいという純粋な願いがいつも彼女のものづくり、人々への思いやり、そして地域への貢献を支えている。

 

二人の母への想いを込めた「花れんこん」

 明るい抽象画を想起させるようなれんこんピクルスの瓶の中では、白いかわいい赤ちゃんレンコンを取り囲み、黄色と赤のパプリカが音楽を奏でているかのようです。「花れんこん」は、9代続く鳴門れんこん農家に嫁いだフラワーデザイナーの齋藤住子さんが開発しました。実の母と嫁ぎ先の母に支えられ、励まされて誕生した、贈り物にぴったりの商品です。畑の中から泥に包まれて掘り起こされるれんこんは、住子さんのデザインで美しい花れんこんに変わります。農家の嫁としてれんこんの加工品を作りたいと2年の歳月をかけて研究し、商品化しました。

 

 徳島県は全国第2位のれんこん生産量を誇る県だということをご存知ですか? その中でも、鳴門市は旧吉野川の河口に近い、肥沃な土壌に恵まれ、長いれんこんの栽培がとても盛んです。粘度状の硬い土からなる畑で栽培されるれんこんは、地下深く2メートルほど埋まっているものも多くあります。強い圧力で育つため密度が高く、色白でシャキシャキした食感と濃い味が特徴です。以前は機械化が難しく全て手作業でれんこんを収穫していました。収穫前に圃場の水を全部抜き、機械で浅く泥を掘り起こし、そこから専用の熊手で一本ずつ丁寧に掘っています。

 

れんこんには、整腸作用のある食物繊維が豊富に含まれている他、鉄分やビタミンC、カリウムなども多く含まれています。また野菜には珍しい、肝臓の働きを助けると言われるビタミンB12も含まれています。

 

 

 

 

 

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